日本では、「前髪」のあるヘアスタイルが男女ともに浸透しています。艶のある前髪とストレートヘアの組み合わせは清潔感も抜群で、シャンプーのCMでもよく見かけるほど一般的です。
しかし筆者の住むフランスでは、ヘアケア製品の広告で「前髪あり」のモデルを見たことがありません。実際に街を歩いていても、ほとんどの人が「おでこを出した」ヘアスタイルをしています。
フランス人はなぜ前髪を作らない?
ファッションにしてもヘアスタイルにしても、「自由」と「個性」を最重要視するフランス。そのため、髪形を選ぶ際も「若々しく見られたい」「親しみやすい印象を与えたい」といった“他人からの評価”を気にすることがありません。
ナチュラルを好む国民性
ルックスに関して、フランス人は「ナチュラルが一番いい」と口々に言います。メイクはかなり控えめですし、ファッションは動きやすいパンツスタイルが主流。髪形も同様で、完璧に整ったものよりは、少しラフで無造作なスタイルが好まれています。
ということで、切りそろえられた「ぱっつん」前髪やきれいにセットされた前髪は、成人女性の間ではあまり一般的ではありません。たまに見かけることがあっても、それはインフルエンサーやヘアスタイリスト、芸能人といった一部の人々であり、「ファッションの一環」として取り入れられていることがほとんどです。
くせ毛問題
フランス人が前髪を作らない理由には、髪質の違いも大きく関係しています。ヨーロッパ系のフランス人は、髪の毛が非常に柔らかく、全体的にくるくるとしたウェーブがかかっています。前髪を作ろうと思ってもこのくせ毛が邪魔してしまい、自分の思った通りにスタイリングできないのだそうです。
また、北アフリカ・アフリカ系フランス人の場合も、髪に強いカールがかかっていることが一般的で、直毛スタイルにするにはセットにかなりの時間を要します。
フランス人にとっては、「真っすぐそろった前髪」を維持するのは至難の業。朝の仕度に時間をかける人もほとんどいませんから、多くの人が「ナチュラルなまま出かけていく」のです。
ズボラな一面も
とはいえ、「ナチュラル」の裏を返せば「ズボラ」ということになります。フランスの人々は乾燥した気候・硬水などの理由で髪を毎日洗いません。髪の健康にはいいとされていますが、頭皮の脂はどうしてもたまりやすくなります。
そんな状況をうまくカバーするのが、フランス女性に定番の「お団子ヘア」です。フランスを訪れたことがある人なら、一度はお団子ヘアの女性を目にしたことがあるでしょう。このヘアスタイルについてフランス女性に尋ねてみると、「楽だから」「脂っぽさが気にならない」という実用的な答えが返ってきました。ナチュラルを良しとするフランス人ですが、前髪を作らない選択には「手間を省きたい」という理由も大きく影響しているようです。
フランス人が、日本人のヘアスタイルに抱く印象
日本人特有の黒髪ストレートや前髪スタイルに対するフランス人の印象は、多くの場合「エキゾチック」「若々しい」といったポジティブなものです。特にぱっつん前髪は、アニメや漫画など日本文化の影響もあり、「日本人らしい」「似合っている」とほとんどの人が好意的に見ています。
しかし一方で、日本人の「ヘアカラー文化」を残念に思う人も。先述したようにナチュラルを良しとするフランス人ですから、「地毛のままがその人らしくていい」という見方になるのです。
また、「前髪を作ると顔が隠れる」と感じる人も少なくありません。そのため重めの前髪に対しては、「少し内向的」「シャイ」といった印象を抱くようです。さらに顔の半分を隠すような前髪スタイルは、アイコンタクトを重視する文化が根付くフランスでは「やや閉鎖的」と思われることがあります。
フランス人女性に「ショートヘア」が少ない理由
そうは言っても、筆者は「髪形の自由度はむしろ日本の方が高いのではないか」と思っています。フランスでは、女性のヘアスタイルに関して「長い髪こそフェミニンでいい」とする考え方が浸透しているためです。
例えば、フランスの若い女性にはショートヘアの割合が比較的少ないことをご存じでしょうか。2024年夏に行われたパリ五輪でも、多くのフランス人女性アスリートが長い髪を1つにまとめて出場していた姿が印象的でした。